ぬるま湯みたいな



ケーキ買うの忘れてきちゃったから買ってきて。



ピッと五千円札を渡されて、家から追い出されて、なんだかなあと思いながらも駅前へと向かった。…別に、誕生日だからってパーティーみたいにする必要はないとは思うけどさ。忘れられてるって、どうよ。

「げ。
「なんだよその接客態度」

だぁからここには来たくなかったんだ。ロコツに嫌っそーな顔をした宇賀神は、「さっさと選んで。私、そんなに暇じゃない」と、接客業として最悪の態度でケーキトングをカチカチ鳴らしてくる。

「うるせ、誕生日ケーキ自分で選ぶむなしさをちょっとはいたわれ」

どうせだから一番高いケーキ選んでやる。…でもこれ俺の好きなのじゃないな。他のお客さんが居ないのをいいことに、じっくりケーキを吟味していると、「ねぇ、」と、なんだかぼそぼそと聞こえる宇賀神の声。

「んー」
「今日、誕生日?」
「へぇ…噂の占い美少女にも、わっかんねーことあるんだ?」
「うるさい」

何も乗ってないトレイでべしっと叩かれた。ホントこいつ店員の自覚あんのか。…これ以上長居をしても、お互いにいい気分にはならなさそうなので、適当にみつくろって帰ることにしよう。


「あ? …つーか、お前なんでいつも人のことフルネームで呼ぶんだよ」
「…まだ決まらないの?」
「……無視かよ」

いつものことながら、ほんっとかわいくねえな、こいつ。アナスタシアの制服はかわいいのに。…うん。かわいいですよ?制服が。性格はかわいくねーけど。まだ花椿の方がかわいいと思う、俺。

「じゃあー、これとこれな」
「もう少し買っていけば?」
「…なんで」
「アナスタシアに貢献して。そうしたら、きっと私のバイト代もあがる」
「お前のためかよ…」

軽口をたたきながらも、手つきはさすがに長くバイトをしているだけあって、しっかりしている。自宅用だからそんな包装とかしなくていいと言えば、そう、と小さく返してくる。
…いつもは聞こえないふりするくせに。調子狂うなぁ…。


「ん?」
「…家に帰るまで、絶対みないで」
「……当たり前だろ」

楽しみ過ぎて箱開けるとか、ガキのすることだろ。呆れかえってそう言えば、ムッとしたように宇賀神が俺を睨む。でもまあ、下から見あげるように睨まれたところで、全っ然恐くねえけど。

むちゃくちゃ棒読みのありがとうございました、を聞いて家に帰れば、いつもの食事がテーブルに並んでた。遅いわよ、なんて小言も食らって、ホント、いつも通り。

テレビ見ながら、食後に少しのんびりしていたら、ケーキの準備をしていた母さんが「やぁだ」と声をあげる。…もしかして横に倒してたりなんかしただろうか。そう思って台所の方に様子を見に行けば、呆れた様子の母さんが、箱の中を見せてくる。

、こんなケーキにプレートなんて必要ないでしょ」
「はぁ? プレート??」

アナスタシアという洒落たロゴの入った箱を覗き見れば、俺の好きなケーキの上に、『お誕生日おめでとう』と書かれたプレートがブッ刺さっていた。

…嫌がらせのつもりなのか、好意なのかがいまいちよくわからんが、多分、好意のつもりなんだろうなぁ、これ。指でつまんで口に入れれば、クリームの甘さと一緒に、プレート特有の食感が歯に伝わる。



「…なんかもっと他に乗せ方あんだろ…」



とりあえず、明日一番にチョップしてやる。




12.03.12