喪服の先生



「薬が完成した者も、できなかったものも、今できているものを瓶に詰めて提出しなさい。レポートの提出期限は一週間後。成功点・反省点・この薬を使用する目的と意味、リスクが最低限書かれていないものは減点対象とします。次回は今日作成した魔法薬をもう一度作ってもらうので、今回と同じ失敗をして成績を下げたいのでなければ、真面目にレポートを書いてきなさい。以上!」

私の言葉を最後に、わっと教室内に子どもの声が響いた。片付けもそこそこに出ていく子どもたちに、厭味ったらしくため息をついて、片付け魔法をふるう。次の授業は三年生のもので、少々危険な魔法薬を扱うため、塵の一つも残しておけないのだ。やっかいごと量産機の双子くんもいるし。

「まだ提出を終えてなかったの?」

もはや全員居ないだろうと思っていたら、すぐそばでもたもたと魔法薬を瓶に詰めている生徒がいた。ロングボトムである。ちらりと見た薬の色は、本来の色とはかけ離れていた。おおかた、くだいてはいけないものをくだいて加えてしまったんだろう。あとは、弱火の所を時間短縮のために強火でやったか。…授業スピードでも早すぎたのだろうか。それとも、口頭のみで注意した所を聞きそびれたか。どちらにしても、生徒全員に目を配ることができなかったという点では、私もまだまだ教師として、未熟なのだろう。

「すっ、すみません…ごめんなさい……」
「何に対する謝罪なのかはわかりませんが、今日の反省点をしっかり押さえて次回にいかせることができればよろしい」

来週同じミスをしたらしっかり減点はさせていただくと付け加えて、私は再び片付け魔法を唱え、ロングボトムがようやく詰め終えた魔法薬を預かった。びくびくしながら、「あの、失礼します…」と教室を出ていきかけたロングボトムを呼びとめると、面白いくらいに飛び跳ねた。…うちの寮の子たちがおもしろがってからかうはずだ。

「な、なんですか?」
「スプラウト教授から、貴方の薬草に対する扱いの事を聞きました。育てる知識があるなら、その後どう扱えばいいのかも押さえておくのも良いでしょう」

薬草学で教わった物を、魔法薬の授業で使えば、生徒たちにより深い知識をあたえられるだろうと思ったのは数年前。同じことを二度三度と勉強するわけだし、横の広がりを持って記憶するから、ひとつ思いだすことができれば、連動してあれもこれもと記憶を引き出すことができるだろう。
そのことを職員会議で提案して以来、共感してくださったスプラウト教授とは毎年綿密な授業計画を練り、薬草の成長に合わせて魔法薬の授業も進めてきた。そのスプラウト教授が、目をかけている生徒なのだ、彼は。

「あ、これ」
「見覚えがあるでしょう」

専門書のように小難しく分かりにくいものなど、一年生の読解力では理解できるとは到底思えなかった私は、様々な書店をまわって一冊の本を購入した。『絵で見る魔法薬学』というこの本は、あまり名の知れていない著者のものだが、一年生の授業に使うレベル魔法薬が分かりやすくくだけた表現で解説されている。使用する薬草や魔法生物の事についても書かれていて、授業と授業を関連付けられることも選んだ理由である。

「きちんと取り組めばできないはずがありませんよ、ロングボトム」

魔法薬学は、魔法のセンスが壊滅的に悪かったとしても、きちんと手筈を踏めば誰にでも簡単に素晴らしい効果の得られる薬が作れるものだ。もちろん、そこには大なり小なり危険はともなうが、それでも、変身学や飛行術に比べてとっつきやすい分野なのだ。
いまだ不安そうな顔をしてこちらを見上げるロングボトムに、そろそろ行かないと昼食を食べ損ねますよと注意してやれば、慌ててそこらにある荷物をひっつかんで出ていった。時計を見れば、急いで準備をしなければ次の授業に間に合わない時間である。

「…ああ、お粥食べたい」

ガートの作る、鶏肉のうまみがギュッと詰まったお粥が食べたい。ほどよく味のついた鶏肉と、ご飯の白と、万能ねぎのカラーリングを想像して、私は思い切りため息をついた。
どうせ今日も夕食の時間まで何も食べれないのだろう。なにせこの学校の生徒たちときたら、次々と問題を引き起こしてくれるのだ。せめて今週末にはおいしい料理が食べれるように、ふくろう通信で食材でもお取り寄せしておくべきかもしれない。作り置き料理でも、日本食が食べれる幸せ。プライスレス。

「スネイプ教授、先週課題に出されていたレポート、持ってきました」
「助かるわ。準備室の方へ置いておいて頂戴。ああ、それからそこの赤毛の二人。きちんと予習をして来たのなら、今日の授業で使う材料はその棚にはないという事は分かっていると思うけれど?」
「なんてこった、リリィ女史は後ろにも目玉がついてるらしい!」
「やっぱり、素直に分けてくださいっていうべきだったんじゃないか?」
「すやすや草はあなたたちの悪戯に使って無駄にして良いものではないですからね。どんなに丁寧にお願いされても上げるわけにはいきません。さあ、そんな所で突っ立ってないで。授業を始めますよ!」

まったくもって、休む暇などありゃしない。




11.09.23