「あんた、なにしてるの?」 広告の裏紙に所狭しと何かを書きつづっては、頭を抱える私の手元をチュニーが覗きこんでくる。ちょっとだけ不機嫌そうに聞こえるのは、気のせいじゃないんだろうな。さっきからチラチラと、目線が手元の方へと行っているし。 果てしなく遠いと思っていた時間はまたたくように過ぎて行って、気が付けば私宛にホグワーツから入学許可証が届く時期になっていた。このところ地味に購入者が増えてきている魔法薬を作っているときに、ガートが誇らしげに手紙を差し出してきたときには、思わずその場で破り捨ててしまいそうになったけれど、そんなことをしても、こちらがしっかり『受け取る』まで執拗に送られてくるのである。もはや不幸の手紙のたぐいじゃないかな、これ。 そんなことを考えながら、仕方なく受け取った私に気づかないガートは、飛び跳ねんばかりに嬉しそうな声をあげて、「今日はごちそうをお作りになるのです!!」と言ってはしゃいでいた。ちなみに、仕事から帰ってきた母も、いつもなら疲れているためにそのままベッドに直行して泥のように眠るのに、その日は上機嫌で紅茶を飲んでいたっけ。 「お断りの手紙を書いているのよ。……ああ、もう。面倒くさいから行きませんってだけ書いて送っちゃおうかな……」 あの公園での出会い以来、もはやなんの嫌がらせかといいたいくらいにエバンズ姉妹と遭遇することが多くなり、気が付いたら普通に友達になっていた。リリーは別としても、ペチュニアとは会うたびに喧嘩してたから、仲良くなる要素はほとんどなかったのに。思い当たるきっかけは、ひとつあるにはあるけれど、なんていうか、今思い返すとものすごく恥ずかしいものだ。 私の家は、貧乏である。今はそうでもないけれど、彼女たちと出会ったころは、食べ物にも苦労するくらいだった。当然、洋服もほとんどが母の古くなった服を着たきり雀よろしく、袖口や襟ぐりが伸びるまで着ていた。それを、彼女たちは子供ながらになんとかしようとしたんだろう。 『まだたくさんあるからどうぞもらって』 にっこり笑うリリーの後ろで、拗ねたような顔をしたペチュニアが、それでも文句も言わずに、差し出された紙袋を私が受け取るのをじっと見ていたのを覚えている。中には、まだほとんど袖を通していないだろうと思われる洋服が数着入っていた。 『あなた、いつも黒ばっかりだけど、こういう色も似合うと思うの』 中から一着とりだし、私に押し当てるリリーに、悪意はないのだというのはわかっていたけれど、その時はどうにも、感情が抑えられなくて。恵まれた家に生まれた彼女たちからみたら、私はさぞ憐れにうつるんだろうと卑屈になっていて。 『こういうことをすれば、私が喜ぶとでも思ったの?』 『……え?』 『変な同情なら必要ないし、施しなんて、受けたくない。馬鹿にしないで』 手をあげることはしなかったけれど、はっきりとエバンズ姉妹を拒絶した瞬間だった。多少後味の悪さもあったけれど、これだけはっきり言っておけば仲良くなることはないだろうと思っていたのに、不思議なことにこの出来事がきっかけとなって、私は二人を愛称で呼ぶほど仲良くなってしまったのである。不思議だ。わけがわからない。 同じように、ホグワーツからの手紙を受け取ったリリーを知っているチュニーにとって、私の言葉は、意外なものだったのだろう。それまで興味がないふりをしていたはずなのに、思い切り食いついてきた。 「えっ、どうして?!」 「だってこの学校、お金かかるんだもの」 ここ、イギリスでは多くの学校が公立校で、授業料は一切かからないし、ノートなんかも学校から支給される。対して、ホグワーツは私立運営なので、教科書一つにもお金がかかる。貯蓄をする暇もないくらい日々の生活でアップアップの我が家に、どこにそんなお金があるというのか。 確かに魔法は魅力的だ。だけど、魔法が日々の生活を潤してくれたわけではない。多少楽にはしてくれたけれど、それでも、生きていく上では何かと入用なものだ。何をするにも、お金はかかる。そしてそのお金は、杖をふるって好きなだけ出せるものではない。魔法というわりに、そういうところはすごく現実的だ。 「……そうだったわ。あんたんち、貧乏だもんね」 「ずいぶんはっきり言うわね。……まあ、事実だけど」 魔法族として生まれたのなら、ホグワーツへ通うことは名誉なことなのだろう。イギリスで他に魔法学校の名前を聞かないから、かなり名門だろうってこともなんとなくは分かる。だけど、私はそんな現実的なんだか夢物語なんだかよくわからない場所へ行くよりも、さっさと大人になって安定した生活を維持できるような職に就けることの方が魅力的にうつる。 今はまだその力を発揮していないとはいえ、いつかヴォルデモートの全盛期がやってくる。スネイプが死喰い人になった時期は正確にはわからないけれど、ホグワーツへ入学して、万が一にでもスリザリンに組み分けされたら、私の死亡率が跳ね上がる。たとえ死喰い人に目をつけられなかったとしても、出自がばれたら、7年間がすばらしく嫌なものになるに違いない。 13.09.01 |