適応力は高いです



緊張して、眠れなかった。……というのはウソである。
体は『春野サクラ』でも、精神体は成人女性彼氏ナシ、就職経験ありなのだ。十二歳かそこらの少女の体にはきつすぎるほどの心労が一気に降ってきたような感覚なんだろう、目覚めたら集合時間の三十分前だった。

子供の体というのは、毎朝化粧をしなくても肌がきれいだというのが一番いい。結局、きちんと朝食を食べ、(春野家の朝食はパンのようだ。個人的には米派なんだけれど…)少しばかりしか急いでいないのに五分も早く着いた。まあ『サクラ』の担当となるカカシ上忍は遅刻ぐせのある人だから、多少の遅刻くらいは平気だとは思うのだけれど、『サクラ』は遅刻が嫌でたまらないらしい。わけもなくイライラとも、億劫とも違う良い表しにくい感情が浮かんだ。

同じ班になったのは、原作通りにナルトとサスケだった。私が来る前から待っている二人は、多少の違いはあるものの、なかなか来ない担当上忍にイライラしているのだろう。暇つぶしにと持ってきた書物からふと目を離すと、うれしそうに黒板けしをドアに挟むナルトがいた。

「なにしてんの」
「遅刻してくる方が悪ぃーんだってばよ!」

…ま、それは確かに正論ではある。ここでどんなに言ったってナルトは辞めないだろうし、サスケは我関せずを決め込むだろうし、面倒くさいのでほっておくことにした。再び書物に目を通していると、ガラリと戸の開く音と、騒がしいナルトの声。

「ん―――…なんて言うのかな、お前らの第一印象はぁ……嫌いだ!」


それに関しては激しく同感である。


「まずは自己紹介をしてもらおうかな」

場所を移動して心機一転、カカシ上忍が提案したのはそれだった。初顔合わせの後は、すぐに適正試験だと思っていたのでちょっと拍子抜けだ。私の記憶もあてにならんなあ……。

「どんなことを言えばいいの?」

自己紹介と言っても色々ある。得意科目とか聞かれたら、どう答えればいいのだろう。暗記です、とか医療全般です、とか答えればいいのだろうか。でもそれは科目じゃないし、そもそもその手のデータなら担当上忍が持っていないわけないし……。

「……そりゃあ好きなもの、嫌いなもの…将来の夢とか、趣味とか…ま、そんなのだ」

あぁ、つまりデータではなく子供本人の人となりを知ろうってことか。こういうコミニケーションは結構大事だ。

「あのさ!あのさ!それより先に、先生自分のこと紹介してくれよ!」

そういう意味では、ナルトはとても接しやすい子供だ。逆にサスケは頑なでとても接しにくい。こういう子供は、やりにくいことこの上ないが、一度懐いてくれるととても嬉しかったりするのだけれど、いかんせん道のりが長すぎて私としては関りあいたくないナンバーワンのタイプだったりする。

「そうだね…いくら上忍といっても見た目がかなり怪しいし」
「あ……オレか?」

一応質問した手前、本を読んでいるのは失礼にあたるだろう。半分まで過ぎた辺りの書物を閉じると、私はカカシ上忍に向き直った。

「オレは『はたけカカシ』って名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない!将来の夢…っていわれてもなぁ…。ま!趣味は色々だ………」

胡散臭さ爆発である。結局分かった事といえば、カカシ上忍の名前だけではないか。まあ、自分のことをべらべらと喋る奴に信用できるやつがいたためしがないから、そういう意味ではいいのかもしれないが。

「じゃ、次はお前らだ。右から順に」
「オレさ!オレさ!名前はうずまきナルト!好きなものはカップラーメン。もっと好きなものはイルカ先生におごってもらった一楽のラーメン!!嫌いなものは、お湯を入れてからの……」

単行本を読んでいたから分かっていたけど、本当にラーメンの事ばっかりなんだなぁ……

「名はうちはサスケ。嫌いなものならたくさんあるが、好きなものは別にない」

サスケの自己紹介を聞いていると、私の中の『サクラ』が反応した。私は、十歳以上も離れたジャリには興味がないので、平然としていたけれど。

「じゃ、最後女の子ね」
「名前は春野サクラ。好きなものは白玉あんみつ、嫌いなものは辛い食べ物。将来の夢はまだ決まってない。趣味は空手」

空手は、私が『サクラ』になる前に習っていたものだ。就職してからは時間がなくてほとんどやる事ができなかったけれど、『サクラ』になってからは毎日欠かさずに型の練習をしている。

やはり二十歳過ぎて体力の落ち始めた体より、自分の体の体重すら感じない十代の物はいい。威力が落ちてしまうのが難点ではあるが、体術系がさっぱりな典型的女の子である『サクラ』としては、このパラメーターは逆にいい方向に言ってくれるのではないかと推測している。チャクラコントロールのことや知識面は、今のところ問題はないようだし。でも、私自身が「サクラ」の体の動かし方や、チャクラの発動のさせ方を理解していないから能力値的にはやはり初期段階の『サクラ』とたいして違わないのだけれど。

「よし、自己紹介はそこまでだ。明日から任務をやるぞ」

どうやら、明日が私の記憶していたサバイバル演習らしい。原作どおりに行くと『サクラ』は何もしないうちに戦闘不能となる確率が高いが、今の『サクラ』は私が混ざりこむ事でサスケに熱を上げている『サクラ』ではない。だから、カカシ上忍が私に見せる幻術がサスケ関連ではないということぐらいしか分からないが……。


さて、どうしたもんかな。




07.08.22