適応力は高いです



次の日。

どうやら私はまたしても遅刻ギリギリだったらしい。演習場につくと、サスケの冷たい視線が一番にこちらに向いた。……おおう、私の中の『サクラ』が嘆いている。ナルトの方はニッコリと笑いかけてくれているというのに、『サクラ』は完全無視のようだ。こんなに社交的なナルトよりサスケがいいだなんて、『サクラ』は見る目ないなあ…。そのうち男にだまされるタイプとみた。気を付けておいてあげよう。

話は変わるが、この時の『サクラ』は髪が長い。暑い上に動き回る上では邪魔なので一つにまとめていると、横からにへらっと笑ったナルトが近寄ってきた。

「サクラちゃん、今日は髪、結ぶんだね」
「動き回るには邪魔だしね。そうそう、ナルト、アンタ朝食はちゃんと食べたの?」
「へっ?……で、でも、カカシ先生が……」
「人間が動くためには脳からの命令が必要なの。でも、命令を出せてもそれが正しくなかったら意味がないでしょ?そのためには、脳がやる気を出すためにご飯をあげないといけないんだけど…。ナルト、脳みそのご飯ってなんだと思う?」
「ん〜と…ら、ラーメン?」
「糖分よ、糖分。砂糖。シュガー」

っていうかラーメンがエネルギーなのはお前だけだ。

私は、こうして『サクラ』となってしまった以上、やれる事はやれるつもりだ。死にたくないし、痛い思いもしたくない。幸いな事に、原作の流れはほぼ頭に入っている。後はそれを、どう有効活用するかだ。

保冷バックに入れて持ってきた冷凍バナナを取り出して、それを二人に投げる。サスケはなんなく、ナルトは少し危なっかしい手つきで受け取ったが、なぜ冷凍バナナを投げられたかは理解していないようだ。

「……何でバナナなんだ?」
「手っ取り早く糖分を吸収するには果物が一番いいの。バナナは朝食にこれ一本食べれば大丈夫といわれているくらい栄養価が高いし、冷凍してあるから、食欲なくても食べやすいんだよね」

やはり前日に皮を向いておいてよかった。冷えたラップをむくと、ちょうどいい硬さになったバナナをかじる。どうもこの歳になるとバナナの丸かじりはなんとなく卑猥な感じがしなくもないけれど、まだまだ子供の『サクラ』やナルト達は、マイペースに食事を取り始めた私に呆れているみたいだ。別にいーけど。

「でもさ、でもさ、朝食は抜いてこいって、カカシ先生が……」
「吐くから抜けって言っただけで、絶対食べるなとはいってないでしょ。そもそも、体を動かすためにはきちんと食事を取らなくちゃいけないんだし…。何も食べてない状況で、力が出ると思う?」

先生の言うことは絶対だと考えるならば、私の言っていることは屁理屈だ。そもそも忍者って、いつでもきちんとした食事ができるわけではないし。でも、逆にいえばきちんと食事が取れる時は取っておいた方が良いわけだ。私の言葉に、二人はどこか当てはまるところがあったみたいで、手のひらでじんわり溶けてきたバナナを見つめている。

「それに、食べたところで吐くだけでしょ。もったいないけど、ゲロぶっ掛けるのも作戦としては悪くないと思わない?」
「……女の子がゲロぶっ掛けるとか言わないで欲しいんだってばよ」

私の発言に、二人はげっそりとした顔をこちらに向けて見せた。正直者だなあ。でもはっきり言って、他人のゲロに慣れてしまっている身としては(介護とか必要なじい様の中には、たまに何が気に入らんのかわざとこちらに向かってリバースしてくれる人がいるしね)初めてゲロを吐きつけられたら結構ビビるんじゃないかと思うので、カウンター攻撃ぐらいには使えるんじゃないかと思っている。

「バナナ一本くらいならよく噛んで食べれば、カカシ先生が着く前に消化すると思うけど」

その言葉をスタートにして、二人は猛然とバナナを口に含んだ。
……あー、よく噛まないとだめよ、君たち。


バナナを食べてからしばらくして、私は腹ごなしのために深く息を吸って自然体を取る。 本当は書物を読もうと思っていたけれど、それよりは体をあっためて動きやすくしておくほうがいいと思ったからだ。型をやったからといって体のキレが上昇するわけではないが、それでもやらないよりはいいだろう。

ゆっくりと深く呼吸をすることで、じわりと汗をかいてくる。はじめと同じように自然体で型を終えると、ほーっとこちらを見ているナルトと目が合った。

「サクラちゃん、今の、よくわかんないけどすっげー格好よかったってばよ」
「……どーも」

なんとなく気恥ずかしくなってナルトから視線をそらすと、今度はサスケと目が合った。サスケのほうは、ナルトとは違ってすぐに目をそらしてしまったけれど、それでも時折ちらりとこちらを向く眼球にびっくりした。体術といい、忍術といい、サクラには目を見張る何かがあるわけではないのだ。サスケがサクラを認めるのは、チャクラコントロールの良さと、その度量と記憶術ぐらいだったように思うのだけれど。

これ以上体を動かすのは気まずいなと感じたので、後は書物を読むことにした。本日の読み物は「忍機」だ。つらつらと難しいことが書いてあるので読み解くのに一苦労するけれど、一度理解してしまえば『サクラ』が記憶してしまうようで便利ではある。もともと勉強は嫌いじゃないというも関係しているのかもしれないけれど。でも、私が必死こいて覚えたわけじゃないから、ちょっぴりズルしてる気分になる。


……それにしてもカカシ上忍、遅いね。




07.08.22