適応力は高いです



結局二時間以上も遅れてきたカカシ上忍。
「はい、嘘!」なんてナルトが叫んでいたけれど、私とサスケはスルー。…いや、サスケも気分的にはナルトと同じなのかな。クールぶってるから、ナルトみたいにお子様丸出し行動が出来ないだけで。

そんな私達『こども』をよそに、マイペースなカカシ上忍は懸賞かなんかで当てましたといわんばかりの目覚し時計を十二時にセットして、ポケットから無造作に取り出した鈴を二つ、目の前に差し出した。

「ここに鈴が二つある。これをオレから昼までに奪い取る事が課題ね。時計が鳴るまでに鈴を奪えなかった奴は飯抜き!あそこに見える丸太に縛り付けた上に、目の前でオレが弁当食うから」

にっこー、と胡散臭い笑みを浮かべるカカシ上忍に、ナルトとサスケがげっそりとした顔になった。それでもこの世の終わりみたいな顔にならなかったのは、さっき食べさせたバナナのおかげ、かな。

「ここにある鈴は二つ。という事は、単純に考えて一人は確実に丸太行きってことだ。つまり、鈴を取れない、イコール任務失敗ってことになるからこの試験失格ね」

あっさりと、けれども確実に誰か一人を蹴落とすという意思表示に、ごくりと喉がなる。正直なところ、今のままのサクラのバロメーターだと後々命の綱渡りを何度も経験しなくてはならなくなるから、アカデミー行きはそんなに嫌な事ではないのだけれど、内なるサクラとなった『サクラ』は、そーはいかないんだろうなぁ……

………うん、すごく面倒くさい。

「オレのこと殺すつもりで来ないと絶対取れないから、手裏剣なんかも使って良いぞ」
「黒板消しもよけられねぇ先生に手裏剣なんか使ったらあぶねーんじゃねぇのか?」
「……ナルト、そんな人が本当に木の葉の上忍なんだったら、この里はとっくに壊滅してると思うけど」
「へっ?」

私の言葉に、ナルトはハトに豆鉄砲食らったような顔をする。
良くも悪くも純粋なるお子様なんだなあ、君って奴は。

「そういうこと。ま、冗談もわからないドベはほっておいて、よーいスタートの合図で開始するけど、イイ?」

その時だった。すぐ横にあるナルトの気配が変ったなと思った時には、ナルトの背後にカカシ上忍が立っていた。ゆうに3メートルはあった距離を異動し、そよ風すらも感じさせないその速さ。クナイを持つ腕を優しく、それで居て絶対にそれ以上力を入れられないうなじへと持っていき、切っ先を肌の上に少し乗せて固定させている。

サクラの体になってから、今までの体に比べればはるかに動体視力は上がったと思っていたけれど、やっぱりアカデミーを卒業した程度のぺーぺーに上忍の姿が捕らえられる訳ではないらしい。どうやら、いくら何としてでもこの試験に受かりたいと言う訳ではないからといって、百二十パーセント以上の力を出すくらいではないと、相手にすらしてもらえなさそうだ。

「そう慌てなさんなって。まだスタートも言ってないでしょうに。……ま、ようやくオレを殺るつもりでくるようになったようだし、やっとオレを認めてくれたかな?」

その言葉に、ナルトもサスケも歴然たる力の差を感じるとともに、立ちはだかる高い壁とやらを目にしてわくわくした顔になる。子供だと思ってたけど、こういうところはいっぱしの男の顔なのよねえ。いくつになっても男はこういう顔をする。つまり、男って奴はいつまでもどこか子供なのかもしれない。

「……じゃ、はじめるとしますか」


よーい、スタート!


カカシ上忍の合図とともに散会すると、ひとまず私は近くの茂みに身を隠す事にした。一番いいのは、隠れるために体を無理な体勢にする必要のない、それでいて手裏剣や印を組むときに体が動いても物音を立てないスペースのある場所だ。慌てて探したものだから、十点満点取れるような場所に隠れる事はできなかったものの、それなりにいい場所を取る事が出来た。

(さて、どうしようかな……)

話の流れ的に、ナルトとサスケが個人プレイでどうにかしようとして全く歯が立たないと言う事は覚えているものの、サクラの行動がまるで思い出せない。カカシ上忍にかけられた幻術によって戦闘不能になったのは覚えているのだけれど、その前に何かアクションを起こしていたような、いないような。

とりあえず、朝早くおきて消化に悪いものをドカ食いしてきたおかげか、気持ちの悪さは最高潮だ。これなら、自由自在に自分の思ったタイミングでリバースできる。問題は、これを一度披露したら私には打つ手はほぼ皆無であると言う事。そんな私が三人一緒に協力するべきだと主張しても、ナルトもサスケもいい返事をしないと言う事だ。

(こうなったら、私が動いて何とかそれっぽく繋げるしかないか)

ざっと思い出してみても、サクラが劇中はっきりと使っていた術は分身と変わり身の二つだけ。さらに体術は『私』が昔やってた空手ぐらいなもんだし……。成長すれば、サクラも医療忍術を学ぶようになるからそれなりに戦力になるのだけれど、いかんせん今のままじゃあなあ……。

アカデミーでの使用が確認されているのが、分身と変わり身、そして変化の術。その中で利用できそうなのと言えば分身と変化の術ぐらいだろうが、分身の術は、言ってしまえば精巧な蜃気楼みたいなもんだ。ナルトの使える影分身とは違って実態ではないから、結局攻撃力は一人分。となると、使える技は変化の術のみと言う事になる。これと言って目立つ術なんかがないっていうのは、結構クるものがあるかもしれない。

そこで、フッと思い出した。
サクラが医療忍術を学ぶきっかけになった人物の事を。結構な年齢であると言うのにそれを思わせない若さと、その細腕からは考えられないほどの威力をもつ怪力の持ち主。確か、あの技はチャクラを使用して使うものだった。という事は、付け焼刃でも今の現状から言えば、多少の戦力となるはずだ。

(あとは、少しでも私自身がカカシ上忍のふところに飛び込めるすべがあれば……)

ぐるぐると頭の中でシュミレートしている間に、どうやらナルトが即効攻撃を仕掛けたらしい。その行動力には感嘆を示すけれど、力の差がわからないでただ突っ込むだけっていうのは自殺行為の何者でもないと思うけどなあ。

「どうした?昼までに鈴取らないと一人だけ昼飯抜きだぞ?……ったく、火影を越すって言ってたわりに元気ないんだから」
「さっきのはチット油断しただけだっての!次はぜってー負けねぇってばよ!」
「ほー。言うねぇ」

感心したように言うけれど、カカシ上忍はこれっぽっちもナルトのことを見ていない。だからだろうか。ナルトのチャクラが感情に任せて一気に練り上げられ、複雑な印を組んでいく。それは彼が最も得意とする、己を増やすための術。

「へっへーんだ!オレだって馬鹿じゃねぇんだもんね!今度は一人じゃねぇからさすがのカカシ先生だって本読んでらんねぇってばよ」
「確かにすごい術だが……ナルト、お前の体力から言ってそれじゃあ一分持つかどうかって感じだろ。おまけに一体練るのに無駄なチャクラ量が多すぎる。こういっちゃなんだが、その術だけじゃあオレはやれない」

よ、とカカシ上忍が言い終わる前に、もう一人のナルトが彼の背後を取った。正直に言えば、背後を取ったというより動きづらいよう体に引っ付いたと言うべきなんだろうが。それでも、完全に油断していたカカシ上忍の裏をかいたわけだ。

「忍者は後ろ取られちゃダメなんだろ、カカシ先生」
「……まいった。ところでナルト、お前、どうやってオレの後ろに?」

素直に参ったと口にしたからだろうか。すっとぼけるカカシ上忍に気を良くしたナルトは、得意げに今の流れを口にする。

アンタって奴は…
本当に愛すべき馬鹿だね、全く……

そして予想どうり、己の手で殴ったのは分身である己。


……少ない手でどうフォローするのがベストなんだろう。
そんなことを思いながら、コリ、と頭をかいた。




07.08.22
カカシのセリフが原作と違うのは仕様です。