影分身の術をといて、ようやくその場にいるのが自分ひとりだと気づいたナルト。多分、カカシ上忍は影分身のナルトと自分の場所を入れ替えて変わり身としたんだろう。そして、そんなナルトは今地面の下に転がっている鈴というあからさま過ぎて逆に胡散臭い罠に引っかかっていた。……あー、もうそんな状態でも威勢がいいのは良いことだけれど、頭に血が上って危ないからさっさと抜け出したほうがよくないか、ナルトよ。 「術はよーく考えて使わないとこうやって利用されんの。それとね、お前、仮にも忍者なんだからこんなバーレバレの罠に引っかかんないでよ」 「引っかかりたくて引っかかったんじゃねぇってばよ!」 ……引っかかりたくて引っかかってるのだったら私はナルトにドMの称号を授与するぞ。 「忍者は裏の裏を読まないと。馬鹿みたいに真っ向勝負しかしない奴らばかりじゃないんだから。毒を盛るとか、寝首をかくとか、日常茶飯事よ?」 「言われなくてもわかってるっつーの!」 「……あのね、分かってないから言ってんのよ、オレ」 カカシ上忍の脱力しきった言葉に、茂みの影からうんうんとうなづく私。と、その時右方向からものすごい勢いで六本のクナイがカカシ上忍に向かって飛んできた。クナイは勢いを殺さずそのままザクザクとカカシ上忍に刺さり、ナルトが大声を上げる。 けれど、カカシ上忍がクナイを避けもせずに六本全部刺されてやるなんて素敵な性格をしてないと思っている私は、あれは本体ではないのだろうなと確信する。確か、カカシ上忍はナルトと同じように影分身が使えたはずだ。多分、今クナイが当たったのもそれと似たような術なんだろう。 そう思ってしばらく成り行きを見ていると、カカシ上忍の姿だったそれはよくある忍者ものの変わり身に使われる丸太にすりかえられており(いつも思うのだけど、どうしてこうタイミングよく丸太がでてくるのだろう?いったいあの丸太は誰が切っているんだ?)、結果としてサスケの隠れている場所を知らせてしまっただけのようだ。 瞬時に現れ、そして消え去った気配にまぎれるように私はじっとその場に伏せる。今ここから動くのは得策ではない。カカシ上忍の意識がわずかでもサスケに向いているのを利用して、どうにかしてナルトに接触したいのだから。 「なーにが『裏の裏を読め』だ! 畜生、先生の罠にゃもう二度と引っかかんねーぞ! 随分とでかい独り言を言いながらも、クナイで宙吊りになっていた縄を切るナルト。一人暮らしが長いと独り言も多くなるって言うけれど、もしかして私も自分で気づいていないだけであんなふうに独り言多いのかなー。それにしても、カカシ上忍のことだ、足元に仕掛けてある罠がひとつだけとは限らないんだけどなー。 「ってまたおんなじ罠に引っかかったってばよー!?」 あぁ、やっぱり。 真下に同じ罠を仕掛けやがって!と憤慨するナルトにやれやれとかぶりを振ると、私は茂みの中でそっと印をかまえる。細心の注意を払って発動させたその術は、『サクラ』の姿を淡い毛色をした子猫の姿に変える。自分の姿が完全に子猫に変わったのを確認すると、私はそっと茂みの中から這い出した。 子猫の視界という慣れない条件でたとたととナルトの吊るされている木までくると、私はナルトを見上げた。いつもは『サクラ』の慎重でも見下ろせるナルトだけれど、この姿だとさすがに見上げなければいけないみたいだ。しばらくじっと見つめていると、腕を組んだままくるくるとこまのように回転していたナルトが私に気づいて顔をほころばせる。 「なーにしてんだってばよ。ここにいたら、あぶねーんだぞ」 にっかりと笑いながら、自分の状況より子猫の心配をしてやれるナルト。やさしい子は好きだが、この状況で敵の忍者だとかまったく考えないあたり大物なのか馬鹿なのか。とりあえず、先ほどの二の舞を踏むものかという精神ですぐに縄きって降りないだけ学習能力はついたのだろうけど。 「私だよ、わたし」 二度あることは三度ある。私はナルトの落下地点にもう一つ罠がないかを、柔らかピンクの肉きゅうパンチでたしたしと確かめると、ひよひよと風を受けてそよぐヒゲをナルトにむけそう言った。ネコの声帯は人間の声帯と違って言葉を話すようにはできていないのだけれど、ここはそれ。やはりヒトが変化したネコとなると、ヒトの言葉を喋れるらしい。 「……ネコがしゃべった」 クナイを取り出し縄を切る寸前の状態だったナルトは、逆さまのまま私をじっと見つめる。そして、思い出したようにクナイをきると、今度こそ十点満点の体操選手みたいにすたっと地面に着地した。そのまま私を覗き込むと、ナルトは私の前足と後ろ足のわきから手を入れてひょいっと抱き上げる。 「お前、今喋ったよなぁ?」 「当たり前。私、サクラだし」 それだけ告げると、くるりと身をよじって私は再び地面に四肢を着地させた。猫の姿をしているせいなのか、どうにも後ろ足だけが宙に浮いている感覚が好きになれないのだ。ナルトが触って逆立ってしまった毛並みをざっと整える。 「サクラちゃん、何しに来たんだってばよ?」 なんだか嬉しそうに脳内妄想でニヤニヤしているナルトには悪いのだけれど、私はただ単にナルトが会得している影分身の術の印の結び方を知りたいだけなのだ。 「ナルト、さっきカカシ上忍と戦ったときに使った術、あれって何?」 主人公であるナルトが多用しまくっているので忘れがちだが、影分身は禁術の一つだ。いきなり術名を言うわけにもいかず、私は『見知らぬ術に対し興味を持つ勉強熱心なサクラ』としてナルトに質問した。まだ誰かを疑うということを知らない子供のナルトは、好きな子からが自分に話しかけてくれるというだけで舞い上がってしまっているらしい。 「んでもって、ここでミズキのヤローが……」 身振り手振りで影分身の術のかかれた巻物を手に入れたこと、そしてその術を会得するのかにどれくらい時間がかかったのかということ。正直言ってその話はどーでもいいんだけど、相手が気持ちよくこちらに教えてくれるタイミングを見計らって声をかける。 「へぇー。ねえナルト、私にもその術、教えてよ」 なぁん、と本当の意味でのネコなで声を出す私。実生活でのネコなで声なんてもう何年もご無沙汰だ。……まあ、そんな話は今はどうでもいいか。ネコの姿であるとはいえ、やはり好きな女の子の上目使いとおねだりというのは純朴少年にとってクリティカルヒットをたたき出したらしい。 「ねぇ、だめ?」 「べ、べべべべつにかまわねぇってばよ?!」 必要以上に裏返った声で先生ぶって私に向き直るナルト。ネコの私に良く見えるように手のひらを近づけてくれるのは良いが、その指先ががちがちに硬くなっていて。一つ一つの動きをしっかりと頭に叩き込みながらも、まだまだ青いなあなんてひっそり思った。 「……あれだ、子供のころ読んだ少女マンガの便利アイテムだ」 ナルトに印を教わり、何とか丸め込んで別行動をとることに成功した私は、さっきとは違う場所に身を隠してひたすら印を組んで術の発動を試してみた。結果は上々、3度目の失敗の後、蜃気楼ではない分身が現れたのまではよかった。 ……が、そこにいたのは今の『サクラ』とまったく同じ姿かたちをした別人。恥ずかしそうに口元に手を当て、唖然としている私に頬を染めるもう一人の私。小さなころ夢中で読んだ吸血鬼と狼女のハーフの子が、映った人間のコピーを作る鏡を使ったときに現れたコピー人間と同じ様な感じになっている。 「お姉さま…」 「えっと、とりあえず私にそっちの趣味はないから。私の名前はサクラね、サクラ」 「あ、は、ハイ!…すみません」 小さくため息をつきつつ一言いれると、もう一人の私はあわてて両手をひざに置きぴしりと正座をする。いや、だから私はかしこまれといったわけじゃないんだけどね?あの無限コピー機的な鏡のように、不良の『サクラ』が出なくてよかったとか思うべきなんだろうか。 「まったく同一のコピーができないっていうのも、やっぱり修行不足だからなのかしら」 「……一応、この術は禁術となっていますから」 「あれ、禁術なのって多重影分身のほうじゃなかった?」 年長者以外にですます調を使って話すサクラを見るのは初めてだから反応に困る。それにしても、影分身一体を作るのに結構なチャクラを消費してしまった。最初に行った変化の術はチャクラ量は相対して食わなかっただけに、この術はすこぶる燃費が悪い。 「あなたは私のコピーなんだし、作戦については話さなくてもわかってるわよね?」 私の言葉に、少々不安そうにうなづきながらも、『私』が口を開く。 「えぇと、私はこのままギリギリまで気配を消してサスケさんと戦っているカカシ上忍に接近、サクラさんは変化の術で足の速い犬になって、サスケさんとカカシ上忍の戦いに割って入った私の隙をついて接近、鈴を奪い取る……で、あってますか?」 「まあ大体はそんな感じね。でも、相手は腐っても上忍。いくら隙を突いたからって上手く鈴が取れるとは思わないほうがいいわね。ここはひとつ、相手に耐え難い精神的ダメージを一発でも食らわせられたらこっちの勝利ぐらいの勢いで行かないと」 「精神的ダメージ、ですか」 『私』の顔がほんの少し青ざめる。 心なしか引きつって見えるのは、気のせいではないだろう。 「カカシ上忍は隠れるのが上手いから、どこにいても一発でわかる臭いでもお見舞いしましょ」 それなら精神的ダメージも与えられるし、一石二鳥。セコイ技だと言うなかれ。生き残るためにはどんなに汚い手段だって使わなくてはならないし、身体的ダメージよりも精神的ダメージのほうが案外相手にはかなりの打撃をあたえられるものなのだ。 「そんな顔しないでよ、ゲロぶっかけるのはあなたの役目じゃないんだし」 「………いえ、でも私たちは一応同じ『サクラ』であるわけですから……」 ゲロぐらいで顔色悪くしてちゃ、この先やってけないとおもうけどなあ。もしかして、この『私』ってサクラと私の中の「戦いや死とは縁遠い私」の姿なのかな。ま、だとしても私、こんな風にお嬢様っぽくしゃべったりはしないと思うけど。 08.03.16 サクラが言ってるのは、「ときめきトゥナイト」にでてくる「マジックミラー」のこと |