好きだと一言、伝えることもできないの



「あれっ、善法寺?」

予期せぬタイミングで声をかけられて、思わず振り返る。

「……え、もしかして、?」

同じ学区内にある、別の制服に身を包んだ人物の顔に、懐かしい面影をみつけて近寄ると、彼は嬉しそうに「覚えててくれたんだ」と笑った。

「性別変わっちゃってるのに、よくわかったね」
「それはお互い様だよ。俺の方こそ、男になってるっていうのに」
「わかるよ。友達でしょ?」

何気ない言葉を交わしながら、心拍数が徐々に上がっていくのを感じずにはいられなかった。うれしいなあ、とはにかんで笑う仕草があの頃と変わらなくて、今のいままで君がどうしているかなんてすっかり頭のすみにいっていた私の胸が、きゅうっとした。

「あ、あのさ。せっかくだし、のメアド教えてよ」

これきりにしたくなくて、気づけば携帯を取り出していた。

「かまわないよ。善法寺のって、赤外線つかえる?」
「あ、ううん。私の、機種古いから…」

面倒だなって思われちゃったら、なんかやだな。のことだから、たとえそう思ったとしてもなんにも言わないだろうけど、眉がちょこっとでも寄せられちゃったら、へこんじゃうかも。

「物持ちいいんだ。俺、すぐダメにしちゃうから羨ましいよ」

ちょっと貸してね、と優しく奪われた携帯に、が慣れない手つきでアドレスをいれていく。「ついでに番号も入れとく?」と聞かれて、無言で頷いた。まれに見ないくらいの幸運だ。うれしすぎて、こわいくらい。

「えっと、じゃあ、次は私がメール送るね!」

アドレス帳を開いての名前をさがせば、律儀にフルネームで登録していた。
へー、今のって名前なのかあ。…格好いいなあ…。

、お待たせー」
「ん。そんな待ってないよ」

ただの空メールじゃ印象薄いし、かといってあんまり待たせるのもなんだし、なんてぐるぐる考えながら本文をうちこんでいる時だった。と同じ制服を着た女の子が、にこっと笑いながら隣に立った。…あ、牽制。

「知り合い?」
「うん。友達」
「へぇー、にこんな可愛い友達いたんだ」
「失礼だなあ…」

コンビニの袋を揺らしてじゃれあう二人は、お似合いで。ただの友達である私が入り込む余地なんて、どこにもなかった。するりと自然につながれた手が、とても羨ましくて。

「そういえば、潮江たちどうしてるか知ってる?」
「知ってるも何も、なんの因果かみんな同じ学校だよ」
「えー、俺だけハブとか…なんか悲しい」
「なら、今度またあらめて会おうよ。みんなには言っておくから」

隣に立つ女の子には分からない会話に、ほんの少しだけ優越感を感じたけれど、きっとそれには何の価値もない。だっては、女の子が気を悪くしないようにと配慮してたから。大切な人なんだなあ…。

「じゃあ、またその時に」
「うん。絶対、連絡するから」

ばいばい、と手を振って、二人の後ろ姿が人込みに隠れて見えなくなるのを確認する前に、くるりと踵を返して歩き出す。握ったままの携帯を見れば、さっきに送った画面が表示されていた。

私の名前と、電話番号。
当たりさわりのない言葉に、ひかえめだけど女の子らしいカワイイ絵文字。

あーあ、とため息がひとつ。
諦めるのがうまくなってる自分に苦笑した。
しょうがないよ、筋金入りの不運だもん。

こんなことなら、会いたくなんてなかったなあ。




(きみと恋人になれたら、なんて。浅はかなゆめをみた




12.01.18