「留ちゃん、かわいい」 陽が傾きかけた部屋の片隅で、極上の笑みを浮かべたがやさしく俺の頬を撫でる。確実にその気にさせる触れ方に、思わず身じろぎすれば、耳のそばでちりちりと、飾り簪が愛らしい音をたてた。 変装の授業があったわけでもないのに、きっちり着込んでいる着物は女物。化粧はやりすぎない程度にほんのりと。短すぎる髪も、なんとかそれなりに見えるように、飾る。 ――全部、この女のために。 はじめて恋に落ちた女は、筋金入りの同性愛者だった。男なんぞ見るのも嫌だと、告白に呼び出したときなんか、好きだと告げる前にくないと八方手裏剣が飛んできたもんだ。ご丁寧に毒まで仕込んであったらしく、下手をすれば死んでいたかもしれんと肝が冷えたのを、よく覚えている。 「顔も、性格も、話を聞いてる限りじゃすごく私の好みなの。ドストライクなのよ。だけど、…ねえ。あなた、余計なものが付いてるんだもの」 ちょん切って女になるっていうなら、考えなくもないわ。 そう、満面の笑みで言われたあの時、俺は確かに震えあがった。こんな女に惚れていたのかとうちひしがれ、しばらくの間ショックでなにも手につかなかった。…そこで諦めて次の恋へいっていればよかったのだが、俺はこんな異常な女にとことん骨抜きにされちまったらしい。 仕方がないだろう。 性別以外はドストライクだとあんな笑顔で言われて、諦められるやつがいたら見てみたいもんだ。 「こんなにかわいいのに、脱いだら男なんだもんねぇ…。もったいない」 そう言いながらも、襟に手を入れて袂を開く。ちらりとみた姿見には、小奇麗に着飾った女を押し倒す女の影がうつる。はだけた胸元には、真っ平らな男の胸しかないというのに、どうにも俺の目には女が二人まぐわっているようにしか見えなくて。それなのに、どくどくと血が流れ込み、熱く固くなっていく下半身に、どうしようもなく俺は男なのだと実感させられる。 「、」 「ダメ。しゃべらないで」 しゃべったら、おとめちゃんが消えちゃう。 現実には存在しない女に恋をする。俺の中にある偽りの性を愛する。すがるようにそろりと、俺の首筋を下から上へとなぞって、切ないような、愛おしげな眼差しで見下ろしてくる。 「…っ、」 なおも名前を呼ぼうとした俺の口に吸いついて、声を奪った。ちりり、と下げ飾りが音をたてるが、俺の耳が拾うのは、くぐもった二人分の呼吸と、衣擦れの音。女にするように胸を愛撫されて、はだけたすそから足をなぞりあげられてぞわりと快感が粟立っていく。 「…かわいい」 たがいの唾液だけでなく、吐息さえも混じり合っただろうと思うくらい口づけた所で、ようやくが少し離れた。口のはしから伝う唾液すら愛しくてしょうがないというように、乱れた紅と共に舐めとられる。 ああ、この女を今すぐ組み敷いてやれたらなあ。余裕たっぷりにかわいいなんてほざくの白い肌に噛みついて押し倒して、忍装束のすそから、そのすべらかな肌を撫であげたいと思うのに、実際の俺はぺろぺろと紅を舐めとるの装束を弱々しく握るだけ。 「好きよ、お留ちゃん…」 潮江の野郎とやり合う、武闘派の俺はなりを潜め、女のようにただひたすら、与えられる刺激に酔いしれる。耳元にふう、と吐息を吹きかけられ、甘噛みされれば、よりいっそう中心が張りつめ切なさを増す。髪をなぞりあげ、こめかみに形のよい唇をよせようとしていたの顔をなんとか押しのけ、俺はの名を呼んだ。 「………すまん、もう耐えられない」 「そう。堪え性がないのね」 とたん、どきりとするほどサッと変わった声音にああ、やはりまだ俺とお留はの中では別物なのだと落胆しながら、乱れた着物を軽く整え、よろよろと厠へと急ぐ。 は、俺が女である間はどろどろに愛してくれるけれど、一度男だと意識させてしまうと、今までの熱が一体どこへ吹き飛んでしまったのかと思うほどに醒めてしまう。その瞬間、にとって俺は、愛しい愛しいお留ちゃんではなく、そこいらにいる汚らわしい、生き物に変わる。そこらの石ころ同然の、いや、それ以下の認識。 そろりと触れた分身は、触れていないのに濡れていて、今もぽたぽたと透明の雫をこぼす。慣れた感覚にむなしくなりながらも、上下にこすり上げて、溜まった欲求を解放してやる。 「――…。 、……っ!」 その一瞬が酷く悲しくて、恐ろしくて。 少しでも愛して欲しくて、こんな奇妙な関係であろうとも、お前とつながっていられるならいいか、なんて思ってしまう俺は。 (もう、とっくに手遅れさ) 12.01.20 |