寒いさむいと思ったら、ちらほらと白い花弁が舞い降りていた。 昨夜の間に、結構な量が積もったらしい。どこかで雪遊びでもしているのか、楽しそうなはしゃぎ声がする。元気だなーなんて考えながら、冷えた空気に思わず手の平を差し出せば、ほんの一瞬、ひやりと濡れて消えるそれ。息をすれば、肺の中に澄んだ空気が満たされて、まるで体の芯まであらわれるよう。 「こんなところで何やってんだ、お前」 何も考えずに、ただぼんやりと雪に覆われつつある箱庭を眺めながら、ほぅ…とはいた息。それにすこし楽しみを覚えはじめた所に、呆れたような顔で首巻きを何重にもぐるぐるさせた川西に声をかけられた。その背にしょいこんでいるのは、便所紙だろう。 こんな寒い日にまで、委員会の仕事とは大変そうだなあと思う。みんなが使うものの備品なのだから、事務の人に頼んでしまえばいいのに。真面目だなあ。 ここを通ったのは、近道するためなのだろう。下級生の長屋の方から、まだ土の色が見える白の上に、川西の足跡が点々としている。 「…なにも。ただ、なんとなく」 寝起きと言うわけでもないのに、火照ったような気がしたから、冷ます意味もかねていたのかもしれない。私は、自分の体温が苦手だ。体が温まりすぎるのが嫌いだ。自分が、自分でなくなってしまうような気がしてしまうから。寒いのが苦手な友人からは、とても重宝されているけれど。 「風邪ひくぞ。ただでさえこの時期はたちの悪いやつを引く奴が多いんだから」 一体いつからそこにいたんだ、と半ば怒るように言われたけれど、明確な時間なんて覚えていない。そんなに時間は経っていないとは思う、と言おうとしたところで、そろりと頬に手が寄せられた。 「…おい、お前!こんなに冷えるまでいたのか!馬鹿か!!」 ほんのりとあたたかい、私でない熱が触れているのに、嫌ではなかった。どうしてだろう。普段から、川西の体温があまり高くないせいかしら。 「今は冬よ?仕方がないじゃない」 「だったら暖かくする努力をしろよ!」 あーもう!と苛立たしげに首巻きをとり、私の首…というか、頭ごとぐるぐると巻いていく。川西、寒がりのくせに。私にこんなにいっぱい巻いたら、自分の分が少なくなってしまうのに。 「川西、川西。息がしづらくて、苦しいわ」 「ん?…ああ、悪い。だけどな、もういい加減なかに入ってあったまれよ。いいな、」 「……分かった」 念を押されてしまっては仕方がない。もう少し、この澄んだ空気に触れていたかったけれど、川西を怒らせるとあとがひどいので素直にしたがっておくことにした。 ひとしきり巻き終えると満足したのか、じゃあ、便所紙を替えにいかなくちゃならないから。と、教員長屋の方へ去っていく川西の後ろ姿は、はじめて会った時よりずいぶん高くなった。声だって、いつからか低くなってしまって。 お互いに、もう六年生になるのだから当たり前かもしれないけれど。 変わらないのは、あとのつきやすい、癖のない柔らかい髪。 怒りっぽくて素直じゃない言い草。なにかにつけて貧乏くじを引く運の悪さ。それから、触れられるようで触れてこない、曖昧な関係。 だからどうしたというわけでもなく。ただ、私たちはありつづける。何をするにも、今さらという感じがするのだ。変化を望まないわけではないけれど、なにかが壊れてしまうような気がして、どうすることもできない。 「…薬草くさい」 息苦しさに少し緩めた首巻きに、顔をうずめて息をする。首巻きの中で湿った息が、余計にその匂いを立ちのぼらせて。 川西の匂いだ、と思った瞬間、冷えた体にじわりと熱が戻った。 12.01.07 |