「ー、ハイチーズ」 ピピッというデジカメの音がしたのをききとどけてから、おれは気をつけのポーズをといて、そよ風にゆれるサクラの木を見あげた。そのとなりには、『入学しき』とかかれたカンバンが立てかけられている。おふくろはなれないデジカメをかたむけたりしながら、なんど目かのしゃしんをとって、ようやくまんぞくそうにわらった。おやじがしごとでこれない分、じぶんがしゃしんをとる!といきまいてたからな。気もちはわからんでもないが。 ここまでのながれで気づいただろうが、今日はなんとおれの入学しきだったりする。ようやく6才になったおれは、ちかくの小学校へとかようことになった。 ここまで、本当に長かったなぁ…。小学生がかけるかかけないかのかん字なんてすっかりわすれていたので、おふくろとかいものに行ったときに、かん字ドリルとか見てあたまかかえたりしたもんだ。そのたびに、いっしょにかいものについてきたしずおとかすかがおかしかた手に不思ぎそうなかおでおれのこと見てたけど。 ランドセルをかってくれたばあちゃんにおくるしゃしんも、まんぞくがいくのがとれたみたいで、おふくろはしきがはじまるまでのあいだ、しばらくおれたち(しずおとかすかもいるんだぜ!)をほっぽっといて、ようちえんのころになかがよかったママさんと会わ中だ。 「ねえちゃん、しょーがっこーって、たのしいか?」 子どもようのエセスーツみたいなのをきて、まあたらしい赤いランドセルをしょったおれをものめずらしそうにみながら、かすかと手をつないだしずおがクイクイッとおれの手をひっぱる。ちょっときんちょうぎみなのは、見なれたようちえんとはちがうふんいきをかんじとっているからなのかもしれない。 「んー、き本てきにはべんきょーしにいくからたのしいかどうかは人によってちがうけど、ねえちゃんはたのしみかな」 「ふーん」 なんて、まじ目にこたえてみたのはいいが…。うーん、しずおにはまだ分からなかったかもしれないなあ。一おううなずいてるけど、このかおはぜってーりかいしてないかおだ。ここはまんめんのえがおで「うん!」とか言ってやりゃよかったか。分かりやすいし。 おれとしては、さっさとこう校生くらいにはなりたいところなんだが、べんきょうっていうのはきそがしっかりしてないとりかいはできないからな。1+1からはじめなきゃいけないっていうのは気がとおくなりそうだが、先生のおしえかたをおぼえるくらいの気もちでやってりゃ、のちのち入学してくるしずおやかすかにもいえでべんきょうおしえてやれるだろ。 「おねえちゃん、しょーがっこいったら、ようちえんこない?」 ついさっきまで、ランドセルをしょったおれをどこかうれしそうに見ていたかすかが、ガーン!とショックを受けたようなこえでおれを見た。 「そうだよ。かすかとしずおはようちえんでべんきょうするけど、ねえちゃんは小学こうでべんきょうすんの」 「なんで?なんでいっしょじゃないの?」 「エライ人が決めたからねー」 2才になったかすかは、あいかわらずひょうじょうはあんまりかわらねーが、かもしだすふんいきがけっこうにょじつにかんじょうをあらわしていて分かりやすい。とくに目とか。 そんなかすかは、おれとしずおがあいようしていたウサちゃんリュック(くたくたになってきたのでおふくろがあたらしいのにしようとしたら、ないていやがった)をまじ目なかおしてしょいなおし、おれのてをギュッとにぎる。 「ぼくもいく」 「うーん…それは…どうだろう…」 「いくの」 もともとギュウっとにぎっていた手に、さらにちからをこめるかすか。しょせん子どもの力だろーと思って気をぬいていたのがいけなかったのか。そのままかすかはおれの手をじ分の方へとひっぱるので、おれはバランスをくずしてよろめく。 「でもほら、かすか、ようちえんすきだろ?おうたとか、おえかきとか、おひるねとかすきだろ?小学校は、おひるねないよ」 そういうと、かすかはさらにショックをうけたかおをする。そして、たのしそうにはなしをしていたおふくろへとかけより、わあん、とないた。そしておれは、かすかが手をはなしたはんどうでころびそうになった。あっぶねー。 「あらまあ、どしたの幽。転んじゃった?」 ビックリしたおふくろは、おろおろしながらこちらをみるが、おれたちはキョトンとしているのでじょうきょうがよくわからないようだった。 すえっ子のかすかは、ふだんほとんどひょうじょうをかおに出さない。まん中っ子のしずおは、これでもか!というほど、かんじょうをストレートに出すけど。だからこそ、わんわんないて、おふくろをこまらせるかすかに、おれたちができることと言えば、とりあえずしゃくりあげるかすかをなでてあげることくらいだった。 「かすか、今、なん才だっけ?」 「ふぇ?」 とつぜん、今までのながれとかんけいないことをふられて、泣いていたかすかはきょとんとする。だけど、おれがにこにこしているからか、泣いていたことをわすれ、ふくふくの手のゆびをおりはじめる。 「んと、にさい」 「おれはよっつだ」 …しずおの年はきいてなかったんだけどなあ。まあいいか。 とにかく、おれはこっちのはなしにきょうみをしめしたかすか(と、ついでにしずお)ににっこりわらってやった。 「じゃ、しずおはあと2ねん、かすかは4ねんたったら、みんなおんなじ『小学生』だよ」 「…4ねんって、どのくらい?」 「たくさんあそんで、いっぱいおやすみなさいをしたらあっというまだよ」 「ほんとう?」 「うん」 子どものじかんっていうのはきちょうなんだ。それなのに、おどろくほどはやくにすぎていってしまう。あれは一体、なんでなんだろうなあ。ものすごくのうみつだからなのかな。 「ねえちゃん、ずりいのな。おれもはやくしょうがっこういきたいのに」 「あせんなくたって、すぐだって」 そういってくちをとがらせるしずおが、とおいむかしのおれのこどもにかさなった。あのときは、しごとにかまけてほとんどかまってやれなくて。いっしょにあそぶとやくそくしたのに、おれがことごとくしごとをとるもんだから、すねていたっけ。 …ああ、くそ。 何かしてやりたいと思うころには、もうなにもかもがおそすぎるんだから、こまったもんだ。 11.03.02 |