きみと知っていたら



あの日、気まずいまま私と彼は駅で別れた。彼は私の家まで送ってくれるといったけれど、大丈夫だからと断って一人で乗客がほとんどない電車に乗り込んだ。四つ先の駅で降りて家に帰ると、出迎えてくれた母は私を抱きしめて心配したんだからねと泣き出してしまった。母の向こう側に、父の姿も見えて、私は泣き出してしまった。ここ何日か我慢していた涙が一気に溢れて、母がご飯を用意してくれる頃には私の目はまるでうさぎみたいに真っ赤に腫れ上がっていた。

次の日、少し落ち着いた私はまだ心配そうに私を見る二人に元気をアピールしてゆりかご愛育園に向かった。空は快晴で、朝日がきらきらとまぶしかった。電車に乗ること以外は、いつもと同じ道を通って愛育園につくと、私はすこし体が強張るのが分かった。そっと下駄箱から室内履きを取り出して履き替える。それからいつものように事務室のデスクへ腰をおろした。その日一日は、妙にどきどきしながら仕事を片付けていった。でも、どきどきしながらもどこか胸が重苦しかった。

原因は、わかっている。

少しだけだけど、あの夜のことを思い出せるようになっていた。あの日私は仕事が終った後近くのコンビにへ行き、とりあえずカゴいっぱいのビールを買うとそのすぐ側の公園に行ったのだった。寒い風が吹く公園には、人っ子一人いなくて。私はブランコに腰をおろして、浴びるようにビールをあけていった。その時、彼が公園の前を通った。そこからはあんまり覚えてないけれど、彼が止めるのも聞かずに飲み続けたあげく潰れた私を助けてくれたのは紛れもない彼で。

あの時すでに出来上がってた私に判断能力がまだ残ってて、ブランコまで付き合ってくれた人が君じゃなければよかったのに。失態を見られてしまったくだらない私の小さな意地が、日を追うごとに雪玉みたいに大きくなっていく。謝りたいのに、くだらない意地が私を彼から遠ざける。出勤時間を2時間も早くさせて、帰宅時間も同じように遅くして。何とか彼とかち合わないようにして。仕事の量も増やして。

あの時はありがとう、迷惑かけてごめんなさい。

その一言が喉まで出かかっているのにいつしか私は彼を避けるようになっていた。




05.11.13