師走の時期に入って、園内もばたばたといそがしくなった。少しでも年末にやる掃除の量を減らそうと職員が出払ったあとに園長と二人で掃除を頑張りすぎたのが原因なのか、そのあと久しぶりにあった友達とカラオケなんかに行ったのが原因なのかは分からないが、喉の調子がすこぶる悪い。ひりひりと訴えてくる喉はどうやらストを決意したらしく、私の声はがらがらで音量はゼロに近い。まあ、事務の仕事しかしない私にはたいしたことではないのだが、電話の対応も仕事内容には言っているのでいいとはいえなかった。 喉のためにと喋らないようにと努めるのはかなり気がめいる。 いっそこのまま叫んで喉でもつぶしてしまおうか。 こほこほと咳をしながら書類に目を通していると、不意に事務室の扉にノックの音が響いた。いつもならはい、と一言声をあげれば済む事なのに、大きな声を出す事の出来ない今はわざわざ席から立って扉を開けなければならない。園長先生ならノックの後すぐに入ってくるはずだ。一体誰だろうと思いながら扉を開けると、少し寂しげな笑みを浮かべた小林さんだった。どきりとした。どうしてここに?と、聞こえないほどの枯れた声が呟いた。 「あれからなんだか姿が見れなくて。…思い込みかもしれないけど、僕、避けられてるのかなぁって思って」 まさかそれだけを言いに来たわけではないと思うのに、そんなことないと言って追い返すことだって出来るのに、ただ私は扉の前に立って彼の言葉に耳を傾けていた。彼はそれだけ呟くと、そうだ、と声をあげて首から下げたエプロンのポケットから喉あめを一つとりだすと、ころりと私の手の上にのせて。 「今年の風邪は喉にくるってきいたから。よかったら、どうぞ」 それだけいうと、彼はそのまま行ってしまう。 多分、これからお昼寝を終えた子供達の元へ行くのだろうけれど。 少し寂しいと感じている私がいた。 手の中にころがったあめを口の中でころがしながら仕事をする。 甘い味がじんわり広がった中で呟いた言葉は、あめと一緒にするりと溶けてしまった。 05.11.13 |