友人の友人



飴をもらった日の夕方。彼は私を心配して近くまで送ってくれた。普通避けられてるのかと思った人間にそこまでするだろうかと思いつつも、私は彼の優しさに素直に甘えた。ぼやっとしていた頭はあの時彼を巻き込んで酔いつぶれていた時よりはだいぶましなはずなのに、やっぱり随分と彼に迷惑をかけてしまったらしい。おぼろげにある記憶を頼りに翌日彼に今までのことすべて含めて謝ると、彼はただ笑って私を見る。

「僕がしたくて、したことだから」

それ以来、私は彼と少しずつ仲良くなっていった。時折ばったり会うだけだった朝の職員玄関が毎日一緒に来るようになり、名前で呼ぶようになり、元気な子供たちに振り回されてボロボロになった大和君が休憩時間にしくしく泣きながらお茶を飲みに来るのが日課になったり。

「…皆元気がよくって。僕もうヘトヘトだよ」
「でも、大和君すごくうれしそう」

そういうと、大和君はちょっと照れたようにはにかみ、まだ熱いお茶をすする。案の定舌を火傷したようで、うめき声のようなものをあげる大和君に、悪いと思いつつ笑ってしまう。外は厳しい寒さだというのに、ストーブの上でやかんがしゅうしゅうなってるこの部屋は暖かい。

「それにしても、今日も寒いですね」
「たくさん着込んでもすぐ冷えちゃいますし」
「私なんてホッカイロ2つも張ってるのに」
「あぁ、だから薄着に見えてたんだ。でも、やっぱり首元あっためないと寒いよ」

そうかなぁと同意して、私はあと少しとなった書類に目を通した。クリスマス会の予算書には、子供たちに配るおもちゃの名前と値段がならんでいた。

「あ、そうだ。さん、よかったら今日家にきませんか?」
「え?」
「僕の家、今日鍋なんだ。だから、よかったらさんもどうかなって」

昨日の残り物を夕飯にしようとしていた私にはとても魅力的な誘いだったけれど、やっぱりいきなり押しかけるのもどうかと思って悩んでいると、男二人で鍋をつつくってのも…とごにょごにょ呟く大和君の声が聞こえた。

「あぁ、大和君ルームシェアしているんだっけ」
「千尋くんっていうんだ。…やっぱり知らない人がいるのって嫌だよね」
「ううん。そうじゃなくて」

一番見られたくないところを見られたからだなんて(きっと大和君は知っているだろうけど)自分の口からは絶対言いたくない。だから私は、ごまかすようにその人日本酒大丈夫かなと思ってと呟いた。

おぼろげにしか残ってなかった記憶はやはりたよりにならなかった。おしゃれなエントランスをくぐって向かうマンションは私の家の家賃の何倍なのだろうか。ルームシェアだとこんなところにも楽に住めるのかしらとまったく関係ないことを思いながら私は大和君の後ろについて歩く。ここだよと笑ってドアをあけようと鍵をならすと、内側からドアが開いた。

「お帰り、小林クン。もう準備できてるよ」
「ただいま、千尋くん」

彼とルームシェアをしている人は、あの日最悪の目覚めをくれた美形さんだった。大和君の話によると、高校のときからの友人なのだそうだ。どうか彼が私を覚えていませんようにと願いつつ、そんな事はないだろうとどこか隅のほうで声がする。当たり前だろう。インパクトで言うならきっと強烈に残っているだろうから。

「あ、君あの時の」
「…その節は……どうも」

居心地悪いと思いつつ、自分でまいた種なのだから仕方がない。大和君はひとりさっさと玄関をあがって、寒いから早く上がってと私に声をかけた。

「これ、お土産。日本酒なんだけど…」
「へぇ〜、これうまいって評判の奴じゃない」

どうやら気に入ってもらえたみたいで、ま、あがりなよと彼は日本酒を眺めながら私を招いてくれた。今日は悪酔いしないでよねと釘は刺されてしまったけれど。けれどすごく楽しい鍋パーティ(であってると思う。盛り上がりが異様だった)で、悪酔いなんてできるはずもなく。こたつに丸まりながら心地よい気分で私は眠りに付いたのだった。




06.02.01