こんばんわ、と言ったのは相手の子が先だった。あわてて私もこんばんわ、と返す。きっと今日のデートが楽しかったんだろう。ニコニコした顔で、知り合い?と聞いているその子に、彼は歯切れが悪そうにバイトの子だよ、と返している。バイトの子。そりゃ、確かに元カノだよなんてバカ正直に言えないことぐらい私だってわかってる。けど、どうせなら友達とか、そういう風に言ってほしかった。 「ちゃん、コイツ、誰?」 挨拶を終えたとたん黙りこくった私を不審に思ったのか、千尋君が不満げに尋ねてくる。その言葉に、私はただ曖昧に笑って、バイト先で知り合いになった人なのだと答えるしかなかった。 「バイト?でも、ちゃんの仕事って―――」 「わあああ!ちっ、千尋くんっ!お土産、お土産やっぱり買って帰ろうよ!で、健吾くんと吹雪ちゃんに送るのっ!ねっ?ねっ?」 突然大きな声を上げて去っていった大和君を、彼と彼女は見つめていた。お互いに何を話せばいいのかわからなくて、さっきまで気持ちよく聞いていたテーマパークのBGMが虚しくまわっている。何か話さなくちゃと思うのに、なにも思いつかなくて。ただじっと足元を見ていた。 「元気か?」 「……え」 「ほら、君あの時こっぴどく叱られてたからさ。最近全然見なかったし、俺心配で…」 何もそこまで完璧に嘘をつかなくてもいいのに、彼はあの時私に見せてくれた笑顔で私の心配をする。それは、私のためなんかではなくて自分のためで。彼のその言葉を信じきっている彼女は、そうなの?と心配そうに私の顔を覗き込んできた。それから、私の顔色が悪いみたいだから、と自販機を探しに行ってしまう。大丈夫といいかけた言葉はのどの奥で消えてしまって、残されたのは彼と私。 「……お前、案外薄情なやつなんだな」 気まずい雰囲気を打ち壊したのは、彼の言葉だった。がらりと変わった口調と雰囲気に、意味がわからなくて戸惑っていると、立て続けに彼の口からこぼれる言葉。 「あんなに俺と結婚したがってたくせに、もう次の男?」 「なっ……!」 かぁっと頭に血が上った。けれど、それよりも失望の方が大きくて。どうして私は、こんな人と一緒になろうと思っていたのだろう?どうして、残りの人生をともに過ごそうと思っていたのだろう?今思えば、こんなにもこの人は自分の事しかか考えない男で。こんな人と、私は一緒になろうとしていたのだ。そう思うと、安堵の溜息とともに自分のみる目の無さに悲しくなる。 「ま、べつにいいけど。頼むからふられた腹いせにゲームの邪魔はするなよ」 人の気持ちを何だと思っているのだろう?恋愛ゲームなら、一人でテレビゲームの前でやればいい。そう言ってやる気すら出てこなくて、私はただ彼に背を向けて歩き出した。彼は私をとめもしないでいる。それがまた悔しかった。私は間違っていたのだ。好きだと思って、相手を信じ込んで、見えない目で見ていた。そんな自分が情けなくて、悔しくて、のろのろと歩いていた足は次第に加速して気づけば走り出していた。 「――ま、まって!ちゃん!!」 遠くで大和君の声が私を呼び止めたけど、こんなぐちゃぐちゃな気持ちで大和君の前に居たくなくて。そのまま、私は遊園地のゲートを抜けた。 06.07.23 |