あれから。遊園地に遊びに行った日からもう何日たっただろう。顔をあわせるのがつらいからと、わざと出勤の時間をずらしたのに、いつもの場所で彼は待っていた。びっくりしているとにこりと微笑まれて、そしてその微笑に、胸の中のもやが溶けたような気がした。 「今日も寒いね」 「もう春なのにね」 休憩時間に大和君が事務室まで来るのもいつもの通りで。しゅんしゅんと音を立てるストーブの側で、私たちはくすくすと笑いあった。深めのマグに入れたココアが、じんわりと体を温めてくれる。カレンダーではもう春だというのに、まだ雪はとけのこっていて、足先は冷たい。 「ちゃん」 「なあに?」 大和君と話をしながらも、ちょっとした仕事をしていた私は呼ばれてようやく手を止めた。顔を上げて大和君を見ると、彼はただまぶしそうな笑みで私を見ていて。 「呼んだだけ」 「……うん?」 どくん、と鼓動が高鳴ったのは多分、普段大和君がいつもしないようなことをするからなんだ。この時間の事務室は、私と大和君しかいないから、妙に意識してしまう。いつもより大和君がやわらかく見えるのは、窓から入る春の日差しのせい。いたずらっ子のようでいて、その瞳の奥に男の人を思わせるのも、光のせい…… 「呼んだだけなんだ。ごめんね、続けて」 そういわれて、私はちらりと大和君を見て再び机に意識を向けた。それなのに、もう一文字も書けなくて。自意識過剰なのかもしれないけど、こうして机に向かっている間も大和君は私を見ているのじゃないかと思えてきて。 「…やめた」 「えっ、ごめん、僕のことなら本当、気にしなくていいから。邪魔しちゃってごめん!」 私の言葉に、大和君はあわててしまって、まだ熱いココアを飲んで舌をやけどしてしまった様だった。大丈夫、なんて声をかければ、舌を気づかいながらも「らいひょーふ」と声が返ってきて、そうして出て行こうとする。 「あの、違うの!……せっかく大和君が来てくれてるのに、仕事ばっかりしてちゃ悪いかなあって………」 見つめられる気恥ずかしさから逃れようといった言葉なのに、今度はそれが新たな気恥ずかしさをよんだようだった。だんだん声が小さくなってきて、部屋にただしゅんしゅんとストーブの音が響く。 07.03.06 |