「いや、だからそうじゃなくって」



ー、ここ、ここ!」
「ごめん、まった?」
「んー、5分くらいよ」

久しぶりに会う友達は、学生時代とは違ってすっきりとした「できる女」だった。もう少しお洒落な服を着てくればよかったかなあなんて思いつつ、差し出されたメニューから適当に選んで、とりあえずはテーブルにおいてあった水を一口飲んだ。

「それにしても久しぶりね」

そうつぶやいた友人は、コーヒーを飲む姿すら様になっていて。なんだかなあ、ちょっとだけジェラシー。きっと彼女は、仕事もプライベートも、恋も何もかもを完璧にこなしているに違いない。

「そうだね、もう5年くらいかなあ?」
「そんなになる?……ま、でもそうか。三谷が結婚するくらいだもんなあ」
「えっ、三谷君、結婚したの?!」
「そうだよ。アンタの初恋の相手♪」

ニッと笑った顔はあのときから変わらなくて、胸の中のもやもやが少しだけ晴れた気がした。一番近くにいたから、一番意識していた同性の友達。いつでも一緒で、いつでも仲がよくて、そしていつでもこっそりと、自分に無いものを持ってる彼女をうらやんでいた。……嫉妬、してた。

「でもまあ、にはもう関係ないのかもしれないけどね」
「どういう意味?」

少しだけトゲのある言い方に、私の口調も少しだけキツクなった。彼女はそんな私を一瞥すると、テーブルの上にあった灰皿を引き寄せて、カバンからタバコを取り出し火をつける。

「タバコ……吸うんだ」
「イライラしたときだけね。今、ちょっと仕事で疲れてて……」

ふぅーっっと吹きかけられた煙は、苦い匂いを残して空気に溶けて。

「あんたさあ、好きな人いるでしょう?」

ドキッとした。気づかないようにしていたことなのに、どうしてこうもあっさり彼女は私のことを見抜いてしまうんだろう。何もいえないでいると、畳み掛けるように彼女が口を開く。

「それでまた気づかないふりするんだ?三谷のときみたいに?」



あんたさあ、それでいいの?



その後のことは、あんまり覚えていない。私が誰を好きなのか、その話はあれきり終わってしまったというのに、久しぶりに会った彼女とたくさんのことを話したというのに。胸に重くのしかかかるのは、「それでいいの?」と問いかけた彼女の声だけで。それでも私は、その気持ちを否定したかった。もうあんな想いはしたくなかった。怖かったから。

「結婚したかった人はいるけど………好きな人はいないよ」




07.03.06