きみが、すきだよ



大和くんが、ゆりかご愛育園にきてから数年が経った

イコール

私が、大和くんと付き合い始めてから、一年以上の時が経つ

「あ、これ大和くんと千尋君宛だよ」

一人暮らしだった私は、付き合い始めてから大和くんと千尋君と一緒に暮らし始めた。多分他の人から見れば不思議な関係だろうけれど私達にとってはとてもシンプルな関係だ。

「本当だ 何なに…」

はがきを受け取った大和くんの顔が、ぱあっと笑顔になっていく。どうやらそれは千尋君も同じようで、大和くんほどとはいかないけれど嬉しそうだ。

「ひまわり高校からの同窓会のはがきが来たんだよ!」
「あぁ、二人の母校の」
「あのクラスのことだから、きっと欠席者なんていないんだろうねえ」

そうやって二人がわいわいしているのを見るのは、ほんの少し疎外感を感じるけれど大和くんと千尋君が幸せそうならそれでいいかなあ、なんて思う。

「……でもそれって、丁度いいかも」

ぽつりとつぶやいた大和くんの言葉が話の流れから考えられないものだったので思わず首をかしげる私。そんな大和くんの隣では、千尋君まで「あー、ソウネ」なんていっている。

「あのね、ちゃん。吹雪ちゃんと健吾くんって、覚えてる?」
「えっと、一昨年遊びにきた、大和くんと千尋君のお友達だよね」

その頃は私は一緒に暮らしていなかったので、二人とは会ってはいないんだけど大和くんが大切にしている写真を毎日見て、話を聞いている私はなぜか二人をよく知っているような気がしてしまう。

「家族みたいな人なんでしょ?」
「うん。だから僕、吹雪ちゃんと健吾君にちゃんのこと紹介したいなぁって」

もちろん、燕先生やあげはちゃんやクラスのみんなにも!そういって私の手をきゅっと握ってくる大和くんは、どこかちょっぴり不安そうな目をしていて。いつの間にか千尋君はどこかへ姿を消していて、今は私と大和くんの二人きり。

さっきまで不安そうな色をしていた目が、一瞬で優しい眼差しにかわる。
あ、と思ってももう遅くて、私の体が勝手に熱くなる。
目をそらすことができなくて、でも見つめ続けることができなくて瞼を閉じる。

そんな私を、大和くんがやわらかく笑っているのがわかる。
おかしいなあ。恋愛経験は、私の方がちょっとだけ上のはずなのに

私の方が、どきどきしてる、気がするなんて

「僕ね、みんなに会ってちゃんのこと自慢したいんだ」



―――そっと瞼に、唇が触れた



それは、とある繁華街の小さな居酒屋。ひまわり高校の小林燕が担当していたクラスの同窓会がにぎやかに行われていた。

クラスのアイドルだったゆりちゃんが結婚していてしかもおめでたという事実に泣く男子。念願かなって担任である燕先生との婚約を果たした斉藤あげはに祝いを述べるもの。遅れてやってきた小林健吾と小林吹雪と、突如沸いて出た小林千尋たちの相変わらずさに盛り上がるもの。

「このノリ…懐かしいですねぇ」

これで小林クンがいればカンペキーとはしゃぐ燕に、、あちこちから同意の声が上がる。今日、くるんだよね?という不安そうな声に、夕方の飛行機で来ると言っていたから少し遅れるかもしれないという言葉がかわされる。

「ねぇ、小林クンって変わったかな…?」
「4年ぶりだもんねぇ」

一目でわからなかったら、どうしよう

小林クンのことだから、そうそう変わりそうにもないけれど。そんなことを考えながら話し込む女性との会話を耳にした千尋は、珍しく悪意の一切ない微笑をたたえて会話に混ざる。

「変わってないよ。そりゃ、ちょっとは変わったけど…以前のままの小林クンだよ」

その言葉に、じゃあ今頃道で迷ってるかもしれないね、と幹事である日影の心配そうな声が聞こえる。過去に実際あった話だけに真実味があるので、周りにいる生徒達は笑いながらも、転んだりとか?とまだ見ぬ大和に思いをはせて。

「……ま、多少オトナになったケドね」

小さくつぶやいた千尋のセリフは、はやく会いたいなぁ!と声をあげる数名の声に混ざって聞こえなくなり。すると、タイミングよくがらりと居酒屋の扉が開く。本日はひまわり高校つばめクラスご一行様の貸切だ。ましてやこの場にいない人間なんて、たった一人しかいなくて。

「―――おかえりなさい!小林クン」
「ただいま!」

そう、元気につげた彼の後ろには、小柄な女性が立っていた。



沢山の人から愛されていた大和は、それだけに挨拶も長い。長いこと会っていなかった友人だということも手伝ってか、大和がクラスメイトと挨拶をしている間、は千尋の隣で静かに座って待っていた。一通りの挨拶が終わって大和がようやく席に着いたのは、到着してから30分が経過してからだった。

「さっきから気になってたんだけど、ちびっ子小林が連れてきた人、誰?」

片時も千尋のそばを離れなかったせいか、どうやら見事に誤解されているらしく、つややかな黒髪の少女は「趣味悪いわねー…」とつぶやきながらを見つめてくる。正直に大和の恋人ですと言えば言いだけの話だが、大和と付き合い始めてもう3年も経つというのにはいまだに恋人宣言というものを自分から言えないでいた。

要するに、恥ずかしいのである。猛烈に。

「そうそう、私も気になってたんだよねー、カノジョ。まさかとは思うけど、小林千尋の恋人?」
「え、ええっと……」

写真でいつも見ていた『吹雪さん』に話しかけられて、はドキッとした。あたりまえだけれど、写真とは違うきらきらした表情にうっとたじろいで。

(だってだって、考えてみたらこれって……!)

まるでご両親に挨拶にでも来ているようだと思った瞬間、の身体はぎしりと固まった。そもそも、吹雪と健吾は年の割りになんだか考え方が少々達観しているような気があるのだ。

「えー、そう見える?」
「え、ちょっと千尋くっ……?!」

にやーっと笑って杏子の肩を抱き寄せる千尋。突然のことに頭が真っ白になるの耳に、女性人たちの黄色い悲鳴が聞こえてくる。

「千尋クンッ!」
「や、大和くん」
「こ、小林クン………?」

抱き寄せられたを奪い返すような大和の行動にびっくりしたのは元3−Aのメンバーである。それもそのはず、今まで3−Aのマスコット的な存在だった小林大和が、たとえ一瞬の出来事だったとはいえ『男の人』に見えたのだから。

杏子をとられた千尋は、「ちぇ」と悪びれることもなくビールに口をつけた。と、いち早く状況から抜け出した吹雪が「何やってんの!」と怒鳴る声が聞こえてくる。

「えと、彼女、大丈夫? 小林クン」
「あっ、ごめんね吹雪ちゃん」

そういって笑う大和の顔は、昔から吹雪の大好きな笑顔だった。にこにことこっちまで嬉しくなってしまうような笑みを浮かべた大和は、腕の中に収めたを開放すると、改まって吹雪と健吾、そして燕に向き直る。

「前に健吾くんと吹雪ちゃんが遊びに来たことがあったでしょ?本当は、その時に紹介したかったんだけど……どうせなら、みんなにも紹介しちゃおうと思って」

照れたように頭をかく大和の顔に、ぼんやりとの視線が絡む。ん?と首をかしげる大和の目は、しっかりとを見ていて、小さいとばかり思っていた手のひらは、きゅっと握られるとの手よりも骨ばっていて、大きい。

「彼女は、さん。 結婚を前提に、お付き合いしてる人なんだ」



『えええええええええええっ?????』



たっぷり30秒後にどよめく3−Aのクラスメイト達に、大和だけが満足そうににこにこと微笑んでいる。杏子は今にも逃げたしたいような衝動にかられたが、しっかりと手を大和に握られてしまっているため逃げることもできなくて。

「……ちゃん、カオ、真っ赤」

くすくすとおかしそうにささやいた大和の声に、また少し温度が上がった。




08.02.29