「お父さん、友達の家に泊まりに行ってもいい?!」 夏休みに帰って来たと思ったら、ただいまよりも先にそんなことを言われた。弾丸のように腰に突撃してきた左門に、「帰ってきて言う言葉はそれじゃあないだろ?」と諭してやれば、「ただいま帰りました!」といい返事。 「うん、怪我もなくて何よりだ。おかえり、左門」 子供特有の柔らかい髪をさらりと揺らして俺を見上げる左門の頭を撫でてやれば、「へへー」と嬉しそうに笑う。それにしても、俺が迎えに行ってないのにまっすぐ帰ってくるなんて珍しいこともあるもんだと思っていたら、ふと戸口でこちらをうかがう子供たちの姿が見えた。 「ん?」 背格好からすると、左門と同年代くらいの子だろうか。 「左門の友達かい?」 「富松作兵衛と、次屋三之助っていうんだ!あとー、反々田数馬と、浦風とーないっ!」 「ぼく、反々田じゃなくて、三反田なんだけど…」 ちょこちょことそれぞれの子どもたちのそばへ行っては俺に紹介してくれる左門は、はじめてできた友達がうれしくってしょうがないんだろう。あともう一人いるけど、その子はどうしてもこれないっていうから!とはしゃぐ左門に、思わず落ち着け、と言いたくなった。 …迷子になられたら困るから、子供たちだけで遊ばせたりしないで、俺の仕事の手伝いばかりさせてたのは、やっぱり良くなかったんだろうなあ。 「いつもうちの左門がお世話になってます」 この時間に家にたどり着いたという事は、きっとこの子たちが左門と一緒に来てくれたからだろう。 「い、いえ、ぼく達は別になんにもしてねぇですから…!」 「そうかい?こいつの迷子っぷりは、俺も手を焼くくらいだから、きみたちにもたくさん迷惑かけてるんじゃないかと思ったんだけど」 そわそわと落ち着かない左門の頭を押さえるようにぐりぐり撫でれば、友達の前だから恥ずかしいのかやめてくれと言わんばかりに逃げまくる。はは、かわいい抵抗だな。 「もう、おとーさん!それで、それで、浦風んちに泊まりに行ってもいい?!」 「そりゃあウチはかまわないけど…いつ行くんだ?」 「今日!」 「今日?!」 えっと、それは、親御さんは知ってらっしゃるんだろうか。 だって泊まるのって、左門だけじゃないだろ?ここにごちゃっとみんないるってことは、こいつら全員泊まりに行くってことなんだろ? 「君のお父さんとお母さんは、いいって?」 子供の目線に合わせてかがめば、彼はにこっとはにかんで「はい」と頷く。 「父と母には、事前に手紙で知らせてあるんで、大丈夫です」 …できた子だなあ。左門も見習いなさいね。お前ときどき友達と話している時みたいに目上の人とか年上の人とかに話すから。父さんは内心ヒヤヒヤです。 「そっか。…左門、泊まりに行くのはいいが、お家の人に迷惑をかけるんじゃないぞ。皿洗いとか、風呂焚きとか、手伝えることは率先して手伝うこと。いいな?」 「はい!」 よし、いい子だ。もう一度わしわしと頭を撫でてやって、それから、俺は一度家の奥へと戻る。左門が持って帰ってきた荷物の数々を置くためと、これから浦風くんの家へいく子供たちへ渡す菓子をとりに行くためだ。…まあ、菓子と言っても、俺が渡せるのなんて、なぜか食べても食べてもまったく減らない無限マーブルチョコぐらいなんだけど。 「忍たまの友、もったか?」 「宿題も一緒にやるつもりなのに、忘れるわけがないだろ?三之助」 「実技練習用の、摸擬手裏剣とくないは?」 「学園からずっと風呂敷の中だ!」 「それと、これも忘れずにな」 わいわいと戸口で荷物チェックをしている子供らの手に、懐紙に適当に分けただけのチョコレートを持たせてやる。左門は、もらったとたんにぱあっと顔を輝かせるが、あとの子どもたちはなんだろう?と首をかしげるばかり。 「チョコレート!こんなにたくさん!」 「旅のお供にもってきな。今日は特別だ」 「ありがとう、お父さん!」 再びタックルして来た左門に、今度こそ俺の腰が悲鳴をあげた。まだ腰痛とかぎっくり腰とかになるほどではないが、肉体労働が多い俺にその攻撃は…効果はばつぐん、だ…。 「わー…きれいな色だね」 「おはじきみたいだ」 「チョコレートっていうんだぞ。甘くて、おいしい!」 左門の言葉に、みんなおそるおそる一粒口に運ぶ。ためらいなく噛むもの、もごもごと口の中で舐めるもの。子供たちの顔がゆるゆると緩むのを見届けてから、「気をつけていくんだぞ」と声をかけた。 12.02.21 ※左門が一年か二年の頃 |